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Crossing Borders: Past and Future of Japanese Studies in the Global Age

Nobuko Toyosawa, Author

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シンポジウムの概略

磯前順一 国際日本文化研究センター 教授 


<死者たちの声が聞こえますかー東日本大震災における宗教の役割>

東日本大震災は多くの人々の命を奪いました。生き残った人たちにも、見殺しにしてしまったという罪悪感という心の傷を作りました。それは東北の被災地に限った話ではありません。東北地方に多くの犠牲を強いてきた状況こそが、近代の日本社会が経済成長を遂げてきた秘密だったからです。この悲劇は日本にとどまらず、近代の国民国家の成長とは何であったのかを考えるための普遍的な教訓を与えてくれる出来事なのです。そうしなければ死者たちもその家族たちも決して救われることがないのです。いいえ、そうしなければ、その事件を知ってしまった私たちもまたその罪悪感から逃れることは出来ないのです。

河野洋 カリフォルニア州立大学ロサンジェルス校

<ヒューマンエラー>


日本政府は、福島は「すべてコントロールのもとにある」と言っているが、それは果たして本当なのだろうか。原発の事故により、15万人を避難させる決定が下された2011年3月12日の朝より6年が経過した。この映画は、あの惨事に日常の生活を壊された人々ー東京電力の幹部、宮司、旅館の女将、農家、地元の市長、86歳と19歳の避難者ーを追ったものである。避難区域内の町が避難勧告を解かれ再生を目指す今、復興の成功は住民の帰還と土地の安全性にかかっているだろう。

佐藤弘夫 東北大学大学院文学研究科 教授


<死者たちの眼差しー日本列島における災害死と救済>

自然に関する科学的な知識を欠いていた前近代社会では、世界の他の地域と同様、列島の人々は不可避の災禍を超越的存在(カミ)の仕業と結びつけ、その出現の必然性を了解しようとした。古代社会では、自然災害はカミが人間に与えるメッセージ(祟り)と解釈された。仏教が受容され世界についての体系的な解釈が定着する中世社会になると、災害についても、その発生を治罰と救済の因果律のなかで説明しようとする傾向が強くなった。根源的存在のリアリティが衰退し、死者を彼岸の仏による救済システムに委ねることができなくなった近世では、災禍を天災として忍受する一方、不遇な死者を祖霊に上昇させるための長期にわたる儀礼や習俗が創出された。「近代化」のプロセスは、生者とカミ・死者が共存する伝統世界から後者を閉め出すとともに、特権的存在である人間を主人公とした社会の再構築にほかならなかった。東日本震災は、そうした近代の異貌性を浮かび上がらせ、私たちの立ち位置と進路を再考させる契機となるものだった。

高倉浩樹 東北大学東北アジア研究センター 教授


<危機の中の文化の役割:2011年東日本大震災後の沿岸漁業における集団主義と個人主義>

日本食を代表する寿司に象徴されるように、漁業は日本の歴史と文化を理解する上で重要な要素の一つである。今日の漁業生産は比較的大きな資本を伴う遠洋漁業が支えているが、沿岸部における中小規模の漁業も重要である。というのも様々な条件にある地域経済を柔軟に支えることができるからである。人類学者は従来から伝統が生み出される源泉として沿岸漁業に関心を寄せてきた。2011年の東日本大震災は、多大な死者、船や施設の破壊、海底への瓦礫というかたちで被災地の漁業産業に大きな打撃を与えた。筆者は被災状況に置ける沿岸漁民の民族誌を描写し、危機のなかにある文化のダイナミズムについて説明する。社会的属性としての集団主義と個人主義が中心の議論となる。さらに災害リスク減災政策における文化の役割についても考えたい。


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